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ゲーム翻訳 16 ~キャラクターのセリフの翻訳~

<キャラクターのセリフの翻訳>


RPGなどでキャラクターのセリフを翻訳することがありますが、その際に、各キャラクターの口調をどのようにするかという問題が浮上してきます。


・日本語には様々な口調が存在する

ご存知の通り日本語の口調は、男口調や女口調、丁寧な口調やヤンキー口調など、性別や性格、年齢や職業などによって様々なバリエーションがあります。そのため、キャラクターのセリフを翻訳する際、そのキャラクターの性格や設定次第で、一つのセリフに対していろんなパターンの訳語が考えられるのです。

例えば、"Thank you."というセリフ一つ取っても、
真面目な性格のキャラだったら、「ありがとう」、「ありがとうございます」など、
軽い性格のキャラだったら、「サンキュー!」、「ありがとっ!」など、
ビジネスライクな性格のキャラだったら、「感謝する」、「感謝します」など、
格闘家や武士などの硬派なキャラだったら、「すまぬ」、「かたじけない」など、
ロボットや宇宙人だったら、「カンシャスル」など、
キャラクターの性格や設定に合った日本語を考える必要があります。特にRPGでは、キャラクターの個性付けは非常に重要な要素になってくるので、キャラクターの個性を引き出すような魅力的なセリフに翻訳していかなければなりません。


・キャラクターの口調は誰が決めるか

海外ゲームがローカライズされる際、キャラクターの口調は誰がどのように決めていくのでしょうか?
これはプロジェクトによって様々で、ローカライザーが決める場合もあれば、翻訳会社のマネージャーが決める場合もあれば、現場で働いている翻訳者が各自で考えていく場合もあるでしょう。しかし、どのような場合でも、一人の独断で全てのキャラクターの口調を決めることは少なく、基本的には関係者によるディスカッションで各キャラクターの口調を決めていくことが多いと思います。「このキャラには、この口調がしっくりくる」というのは、論理的に判断がつくものではなく、どちらかというと感覚の問題になってきます。そういった問題は、なるべく多人数で決めていった方がユーザーの感覚に近い答えを導き出せる場合があるんですね。
そのため、ゲーム翻訳に関わる全ての関係者が、キャラクターの口調を考え、提案できるような見識を持っていることが理想です。

ちなみに原作物やシリーズ物の場合、基本的には原作や過去作品での口調をそのまま踏襲していくことになりますが、新しいキャラクターが登場する場合は、その都度、口調を考える必要が出てきます。


・キャラに合った口調に翻訳するためには?

各キャラクターの性格や設定に合った口調を考えるためには、普段からゲームをプレイしたり漫画を読んだりして、「こういうキャラクターはこういう口調で話す」という実例を自分の中でたくさんストックしておくことが重要だと思います(もちろん、それに縛られすぎてはいけませんが)。

私が初めてRPGの翻訳を担当した時、キャラクターの口調を勉強できる参考書のようなものはないかと思い、シナリオライター向けや漫画家向けの参考書を読み漁りましたが、口調について書かれているものは一切見つかりませんでした(見つけたら教えてくださいm(__)m)。 元シナリオライターの知人にそのことを相談すると、「漫画をたくさん読むといい」という答えが返ってきました。その知人は、女の子の口調を研究するために『いちご100%』や『To LOVEる』を読み、ヤンキーの口調を研究するために『キューピー』や『クローズ』などを読んでいたそうです。私自身も、初めてRPGの翻訳をした時には、10作品以上の漫画を読んで、各キャラクターに合った口調やエンタメ作品にふさわしいカジュアルな口調を勉強しました。ちなみにそのゲームが発売された後、ユーザーのレビューサイトで、「翻訳は悪くない」と言っていただけた記憶があります(笑)

しかし、女の子やヤンキーといったお約束のキャラだけではなく、ゲームでは、セリフを翻訳するのが難しいキャラクターが登場することもあります。
代表的なのが人間以外のキャラクターです。例えば、海外モノのゲームや漫画でスライム状のキャラクターが出てくる時、以下のように子音の一部を伸ばして喋ることがあります↓

Slime

読みづらくてごめんなさい、「It's no use. No one can slash me.」と言っています。
このセリフを、「無駄だ、私を斬ることはできん」と普通に翻訳しても、英語原文が醸し出しているスライムっぽさや未知の生物っぽさは伝わりませんよね。そういった要素をなんとか日本語訳にも反映させるためには、
例えば、セリフをカタカナ表記にして句読点を除いてみたり↓
「ムダダ ワタシヲキルコトハデキン」

スライムっぽさ(ドロ~ンと伸びている感じ)を出すために「...」を付けてみたり↓
「ムダダ... ワタシヲキルコトハ...デキン...」

読みづらいと思ったら、漢字にできる単語は漢字にしてみるなど↓
「無駄ダ... ワタシヲ斬ルコトハ...デキン...」

いろいろと試行錯誤して口調(この場合は「表記」ですかね)を考えなければなりません。
映画や小説とは違い、ゲームではこういった人間以外のキャラクターが多く登場します。そのため、キャラクターのセリフを翻訳する際、時には既存の口調に捕らわれないようなクリエイティブな発想が必要になってくる場合もあります。


・キャラクターのセリフを翻訳する際の注意点

キャラクターのセリフを翻訳する際に最も注意しなければならないのは、そのキャラクターの全てのセリフで口調や一人称を統一するということです。ゲーム翻訳では全てのテキストをゲーム中で確認するのが非常に困難であるため、この点に関して見落としてしまうケースもあります。

ローカライズフレンドリーな開発会社であれば、テキストファイルを作成する際に、各セリフを発するキャラクターの名前や性別などを全て明記してくれることもあるのですが、中には、そういった情報をテキストファイルに含めてくれない開発会社もあります。また、話し手が明記してあったとしても、それが間違っていることもあります。そのような場合もあるため、基本的には、テキストファイルに含まれている全てのセリフの話し手をゲーム中で確認するのが理想です。

ゲーム中でのセリフの確認を怠ると、最悪の場合、男なのに一部のセリフだけ女口調で話す(突然オカマになる)キャラや、一部のセリフだけ異なる一人称で話すキャラが出来上がってしまうこともあります。 実際、海外ゲームの日本語版で、男なのに女口調でしゃべっていたり、一人称が「僕」で統一されていたのに一部のセリフだけ「俺」になっているキャラクターを見かけたことがあります。多くの場合は笑い話で済み、大きなクレームに結びつくことはありませんが、丁寧な翻訳だと認められるためには、そういったミスも極力避けるべきでしょう。


・セリフの翻訳こそ、ゲーム翻訳の醍醐味

ゲーム翻訳の中でも、キャラクターのセリフの翻訳は比較的難しい部類に入ると思います。キャラクターの性格や設定に合った口調を考えるには想像力が求められてきますし、ゲーム中でのセリフの確認もかなり手間のかかる作業です。
しかし個人的には、ゲーム翻訳で最もやり甲斐があるのはセリフの翻訳だと思っています。 セリフの訳し方ひとつでそのキャラクターの印象がガラッと変わってきますので、そのキャラクターがユーザーから愛されるかどうかを左右する重大な任務なのです。

その分、翻訳を担当したキャラクターがユーザーの間で人気が出たりすると非常に嬉しいものです。以前、自分がセリフの翻訳を担当したキャラクターの四コマ漫画(ファンの方が描いてくれました)をネットで見かけたことがありますが、嬉しくて全てプリントアウトしてしまいました(今でも大事に持っています)。

大げさな言い方かもしれませんが、セリフの翻訳をしているときは、何かそのキャラクターに命を吹き込んでいるような、そんな感じがするんですね。



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