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ゲーム翻訳 16 ~キャラクターのセリフの翻訳~

<キャラクターのセリフの翻訳>


RPGなどでキャラクターのセリフを翻訳することがありますが、その際に、各キャラクターの口調をどのようにするかという問題が浮上してきます。


・日本語には様々な口調が存在する

ご存知の通り日本語の口調は、男口調や女口調、丁寧な口調やヤンキー口調など、性別や性格、年齢や職業などによって様々なバリエーションがあります。そのため、キャラクターのセリフを翻訳する際、そのキャラクターの性格や設定次第で、一つのセリフに対していろんなパターンの訳語が考えられるのです。

例えば、"Thank you."というセリフ一つ取っても、
真面目な性格のキャラだったら、「ありがとう」、「ありがとうございます」など、
軽い性格のキャラだったら、「サンキュー!」、「ありがとっ!」など、
ビジネスライクな性格のキャラだったら、「感謝する」、「感謝します」など、
格闘家や武士などの硬派なキャラだったら、「すまぬ」、「かたじけない」など、
ロボットや宇宙人だったら、「カンシャスル」など、
キャラクターの性格や設定に合った日本語を考える必要があります。特にRPGでは、キャラクターの個性付けは非常に重要な要素になってくるので、キャラクターの個性を引き出すような魅力的なセリフに翻訳していかなければなりません。


・キャラクターの口調は誰が決めるか

海外ゲームがローカライズされる際、キャラクターの口調は誰がどのように決めていくのでしょうか?
これはプロジェクトによって様々で、ローカライザーが決める場合もあれば、翻訳会社のマネージャーが決める場合もあれば、現場で働いている翻訳者が各自で考えていく場合もあるでしょう。しかし、どのような場合でも、一人の独断で全てのキャラクターの口調を決めることは少なく、基本的には関係者によるディスカッションで各キャラクターの口調を決めていくことが多いと思います。「このキャラには、この口調がしっくりくる」というのは、論理的に判断がつくものではなく、どちらかというと感覚の問題になってきます。そういった問題は、なるべく多人数で決めていった方がユーザーの感覚に近い答えを導き出せる場合があるんですね。
そのため、ゲーム翻訳に関わる全ての関係者が、キャラクターの口調を考え、提案できるような見識を持っていることが理想です。

ちなみに原作物やシリーズ物の場合、基本的には原作や過去作品での口調をそのまま踏襲していくことになりますが、新しいキャラクターが登場する場合は、その都度、口調を考える必要が出てきます。


・キャラに合った口調に翻訳するためには?

各キャラクターの性格や設定に合った口調を考えるためには、普段からゲームをプレイしたり漫画を読んだりして、「こういうキャラクターはこういう口調で話す」という実例を自分の中でたくさんストックしておくことが重要だと思います(もちろん、それに縛られすぎてはいけませんが)。

私が初めてRPGの翻訳を担当した時、キャラクターの口調を勉強できる参考書のようなものはないかと思い、シナリオライター向けや漫画家向けの参考書を読み漁りましたが、口調について書かれているものは一切見つかりませんでした(見つけたら教えてくださいm(__)m)。 元シナリオライターの知人にそのことを相談すると、「漫画をたくさん読むといい」という答えが返ってきました。その知人は、女の子の口調を研究するために『いちご100%』や『To LOVEる』を読み、ヤンキーの口調を研究するために『キューピー』や『クローズ』などを読んでいたそうです。私自身も、初めてRPGの翻訳をした時には、10作品以上の漫画を読んで、各キャラクターに合った口調やエンタメ作品にふさわしいカジュアルな口調を勉強しました。ちなみにそのゲームが発売された後、ユーザーのレビューサイトで、「翻訳は悪くない」と言っていただけた記憶があります(笑)

しかし、女の子やヤンキーといったお約束のキャラだけではなく、ゲームでは、セリフを翻訳するのが難しいキャラクターが登場することもあります。
代表的なのが人間以外のキャラクターです。例えば、海外モノのゲームや漫画でスライム状のキャラクターが出てくる時、以下のように子音の一部を伸ばして喋ることがあります↓

Slime

読みづらくてごめんなさい、「It's no use. No one can slash me.」と言っています。
このセリフを、「無駄だ、私を斬ることはできん」と普通に翻訳しても、英語原文が醸し出しているスライムっぽさや未知の生物っぽさは伝わりませんよね。そういった要素をなんとか日本語訳にも反映させるためには、
例えば、セリフをカタカナ表記にして句読点を除いてみたり↓
「ムダダ ワタシヲキルコトハデキン」

スライムっぽさ(ドロ~ンと伸びている感じ)を出すために「...」を付けてみたり↓
「ムダダ... ワタシヲキルコトハ...デキン...」

読みづらいと思ったら、漢字にできる単語は漢字にしてみるなど↓
「無駄ダ... ワタシヲ斬ルコトハ...デキン...」

いろいろと試行錯誤して口調(この場合は「表記」ですかね)を考えなければなりません。
映画や小説とは違い、ゲームではこういった人間以外のキャラクターが多く登場します。そのため、キャラクターのセリフを翻訳する際、時には既存の口調に捕らわれないようなクリエイティブな発想が必要になってくる場合もあります。


・キャラクターのセリフを翻訳する際の注意点

キャラクターのセリフを翻訳する際に最も注意しなければならないのは、そのキャラクターの全てのセリフで口調や一人称を統一するということです。ゲーム翻訳では全てのテキストをゲーム中で確認するのが非常に困難であるため、この点に関して見落としてしまうケースもあります。

ローカライズフレンドリーな開発会社であれば、テキストファイルを作成する際に、各セリフを発するキャラクターの名前や性別などを全て明記してくれることもあるのですが、中には、そういった情報をテキストファイルに含めてくれない開発会社もあります。また、話し手が明記してあったとしても、それが間違っていることもあります。そのような場合もあるため、基本的には、テキストファイルに含まれている全てのセリフの話し手をゲーム中で確認するのが理想です。

ゲーム中でのセリフの確認を怠ると、最悪の場合、男なのに一部のセリフだけ女口調で話す(突然オカマになる)キャラや、一部のセリフだけ異なる一人称で話すキャラが出来上がってしまうこともあります。 実際、海外ゲームの日本語版で、男なのに女口調でしゃべっていたり、一人称が「僕」で統一されていたのに一部のセリフだけ「俺」になっているキャラクターを見かけたことがあります。多くの場合は笑い話で済み、大きなクレームに結びつくことはありませんが、丁寧な翻訳だと認められるためには、そういったミスも極力避けるべきでしょう。


・セリフの翻訳こそ、ゲーム翻訳の醍醐味

ゲーム翻訳の中でも、キャラクターのセリフの翻訳は比較的難しい部類に入ると思います。キャラクターの性格や設定に合った口調を考えるには想像力が求められてきますし、ゲーム中でのセリフの確認もかなり手間のかかる作業です。
しかし個人的には、ゲーム翻訳で最もやり甲斐があるのはセリフの翻訳だと思っています。 セリフの訳し方ひとつでそのキャラクターの印象がガラッと変わってきますので、そのキャラクターがユーザーから愛されるかどうかを左右する重大な任務なのです。

その分、翻訳を担当したキャラクターがユーザーの間で人気が出たりすると非常に嬉しいものです。以前、自分がセリフの翻訳を担当したキャラクターの四コマ漫画(ファンの方が描いてくれました)をネットで見かけたことがありますが、嬉しくて全てプリントアウトしてしまいました(今でも大事に持っています)。

大げさな言い方かもしれませんが、セリフの翻訳をしているときは、何かそのキャラクターに命を吹き込んでいるような、そんな感じがするんですね。



ゲーム翻訳に関する他の記事はこちら→ゲーム翻訳の記事一覧
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ゲーム翻訳 15 ~取扱説明書の翻訳~

<ゲーム内テキスト以外のゲーム翻訳 その3>


今回は、取扱説明書の翻訳に関して少しだけ話をしたいと思います。
バグレポート翻訳ほどの需要はないと思いますが、説明書の翻訳もローカライズ工程の中に含まれることがあります。


・説明書は翻訳しないこともある

まず、海外ゲームの日本語版が製作される際、説明書は必ずしも翻訳されるとは限らず、翻訳されたとしてもそれがそのまま製品になるとは限りません。 これは、説明書の作成スタイルが日本と欧米で異なることが多いからです。
まず、日本のゲーム会社はデザイン性に富んだ説明書を作る傾向があります。スクリーンショットやイラストを多用し、レイアウトにもいろいろとこだわったりして、ユーザーが楽しく読めるような説明書を作るのです。
それに対し、欧米のゲーム会社はあまり説明書のデザインにこだわらない傾向があります。スクリーンショットやイラストは最小限にとどめ、文字だけで淡々と説明することが多いです。まあこれは、ゲームのボリュームが多いので仕方ない面もありますが…
要するに、日本のゲーム会社はなるべく絵で説明しようとするのに対し、欧米のゲーム会社は文字だけで説明する傾向があるのです。
このような傾向の違いは、PCゲームの説明書で特に顕著に現れます。おそらく、海外のPCゲームをよくプレイする人の中には、説明書を読んだだけでそのゲームがローカライズか純日本製かを見分けられる人も多いのではないでしょうか。
そのような違いがあるからか、海外ゲームの説明書は、日本のユーザーや開発者からは味気なくて読みにくいと感じられることが多いのです。そのため、オリジナル版の説明書をそのまま日本語化するのではなく、デザイナーの手で一から説明書を作り直すというケースも、特にコンシューマゲームでは珍しいことではありません。

とはいえ、PCゲームでは、オリジナル版の説明書をほとんど変えずにそのまま日本語化することもまだまだ多いです。また、中には、ローカライズ費を安く抑えるために、インゲームテキストは英語のままで説明書だけを日本語化するといったケースもあります。


・読みやすい日本語文章にすることを心がける

ゲームの説明書を翻訳する際に最も重要なことは、なるべく直訳調を避けて読みやすい日本語に翻訳することだと思っています。これは何故かといいますと、実際、直訳調で書かれた説明書に対して不満を唱えるユーザーが多いからです。ネットでローカライズタイトルのレビューを読むと、「説明書が意味不明だ」という意見を多く見かけます。個人的に、直訳調の日本語は妙な可愛らしさ(?)があって好きなんですが、多くのユーザーからは「読みづらい文章」の一言で片付けられてしまうことが多いんですね。

まず前述の通り、海外ゲームの説明書には絵があまり使われない傾向があります。また、特にPCゲームの場合、説明書のページ数が非常に多くなることも珍しくはありません。一般的なコンシューマゲームの説明書がだいたい数十ページほどであるのに対し、海外版のPCゲームの場合、中には150~200ページにわたるものも存在します。そのため、イラスト入りでページ数が少ない説明書に慣れている日本人にとっては、海外ゲームの説明書はただでさえ読むのが面倒なものが多いのです。ただでさえ読むのが面倒なのに、その上日本語が直訳調で読みづらいとあっては、読む気を無くすユーザーがいてもおかしくはないと思います。

例えば、リズムゲームの説明書で以下のような説明があるとします。

If you wish to beat your high scores and rank higher in the leaderboards, try hitting a ball with two of your sticks rather than just one to perform the Double Hitting.

これを直訳してみると、

ハイスコアを更新したりランキング表の順位を上げたかったら、ダブルタップを行うために、一本だけではなく二本のスティックで一つのボールを叩くことを心がけましょう。

といった具合になります。
この説明で言いたいことは、「一つのボールを二本のスティックで叩くとダブルタップとなり、高得点が入る」ということです。上の日本語でも十分意味は通じますが、少し硬い感じや、くどい感じがしますよね。この文章だけを読む場合はいいのですが、説明書が全ページにわたってこんな調子だと、だんだん読むのが苦痛になってくるユーザーがいるかもしれません。
そのため、以下のように翻訳して、もう少し自然な日本語にすると良いと思います。

「ハイスコアを更新したい」、「ランキング表のトップに上り詰めたい」と思ったら、一つのボールを二本のスティックで叩くダブルタップをマスターしよう!


翻訳を実務、出版、映像の三分野に分けた場合、説明書の翻訳は実務翻訳に含まれると思います。実務翻訳では、原文の意味を確実に伝えるために直訳するのが良しとされることがありますが、ゲームの説明書の翻訳の場合、それは当てはまりません。 何故なら、社内文書や取引先向けの文書などとは違い、ゲームの説明書を読むのはエンドユーザーだからです。エンドユーザーに読ませるからには、「意味が伝わればいいや」程度の日本語ではなく、読みやすさにもこだわるのがプロの仕事であると思います。


・ゲーム内容との整合性を取る

読みやすさの他にも、ゲームの説明書を翻訳する際に注意しなければならない点があります。それは、説明書に書かれている内容と実際のゲーム内容との間で整合性が取れているか、ということです。

まず、当たり前のことですが、キャラクター名やモード名といった固有名詞は、ゲーム内のものと同一でないとユーザーを混乱させてしまいます。PCゲームの説明書では、ゲーム内の呼称と説明書内の呼称が異なっていることもあれば、説明書内ですら呼称の統一が取れていないケースもあります。

もう一つ気をつけなければならないのは、説明書に書かれている内容が必ずしも正しいとは限らないという点です。これは海外ゲームに限った話ではないかもしれませんが、まれに説明書に書かれている内容が間違っていることがあるのです。

以前、説明書の翻訳をした際に、説明書に書かれていることの多くが実際のゲーム内容と矛盾していたことがあったのです。開発元にそのことを尋ねても、「よく分からない」と一蹴されたため、説明書に書かれている内容を、実際にゲームをプレイしながら一つ一つ確かめていくという、とてつもなく面倒な作業に直面することになったのです。ちなみに、そのゲームのオリジナル版は、説明書の内容が間違いだらけのまま出荷されることになりました(日本ではあり得ないですよね)。
そんな経験もあり、今では、説明書に書かれている内容の中で正しいかどうか確信が持てないものがあった場合、必ずゲームをプレイして確認するようにしています。


・説明書の翻訳のゴール

「説明書の日本語が分かりにくい」というのは、実はゲームに限った話ではなく、ローカライズ版のソフトウェア全般でしょっちゅう言われている意見です。最近のゲームではゲーム内チュートリアルが充実していることもあり、説明書を全て読むユーザーは少なくなっているかもしれません。しかしPCゲームなどの大ボリュームゲームでは、やはり全ての要素を把握するのに時間がかかるため、ユーザーが説明書を頼る機会も多いです。
説明書を翻訳する際は、ゲーム内容を正しく伝えるとともに、時間をかけずにスーッと読めるような日本語に翻訳することを心がけ、ユーザーが読んでいて苦痛に感じないような説明書に仕上げることを目標にするといいと思います。



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ゲーム翻訳 14 ~ユーザーフレンドリーな翻訳~

<ユーザーフレンドリーな日本語テキストに翻訳する>


和ゲー、洋ゲー問わず、最近のゲームにはチュートリアルが必ずといっていいほど含まれています。
ゲームでいうチュートリアルとは、「ゲーム中のこういう場面ではこのように操作してください」という、基本的な操作方法やゲームシステムを、実際にゲームをプレイさせながら説明していくことを指します。その多くは説明書にも書かれている内容だったりしますが、説明書を全て読まずに遊び始めるユーザーが多いことや、文字で説明するよりも実際にゲーム中で説明した方が分かりやすいこと(「習うより慣れろ」の精神)から、ゲーム中にチュートリアルを入れてユーザーの便宜を図っているというわけです。

Tutorial


・海外ゲームには不親切なチュートリアルも多い

しかし、翻訳のためにゲームをプレイしていると、チュートリアルの中に「分かりにくいな」、「言葉足らずだな」と感じるテキストを見かけることがあります。 もちろんこれは海外ゲームに限った話ではありませんが、全体として海外ゲームの方が日本のゲームよりも不親切な部分が多いような気もします(日本のゲームが丁寧すぎるといった方が正しいでしょうか)。


ゲーム翻訳者として取るべきスタンス

インゲームテキストを翻訳する際に、そのような言葉足らずなチュートリアルテキストに出会ったら、どのように翻訳するべきなのでしょうか? 主に以下の二つのスタンスが考えられます。

① 言葉を補うなどして、英語原文よりもわかりやすい日本語に翻訳する
② あくまでも翻訳者として、原文の内容に忠実な日本語に翻訳する


もちろんケースバイケースですが、基本的には上記①のスタンスを取るべきであると考えます。 これは、日本語版をプレイするのは日本人ユーザーであるため、ゲームの仕様はなるべく日本人ユーザーにとってフレンドリーなものであるべきだからです。
海外ゲームの日本語版が制作される際、日本人ユーザーに対する配慮として日本語版だけ仕様が変わるということも珍しくはありません。例えば、PS2用ソフト『サイオプス』のオリジナル版では、エリアマップに自キャラの現在位置がアバウトにしか表示されていなかったものの、日本語版では詳細に現在位置を表示し、自キャラの向いている方向まで分かるように仕様変更されました↓(まさにローカライザーの鑑ですね

PsiOps

「日本人ユーザーにとって親切な仕様にする」というのは、インゲームテキストに関しても同様だと思っています。 日本語版のユーザーが目にするのは日本語に翻訳されたテキストのみであり、英語の原文なんて知ったこっちゃありません。「このゲームの日本語テキストは言葉足らずで不親切だ」と指摘された場合に、「原文がそうなっているんだから仕方ない」という言い訳は通用しないのです。そのため、「これを直訳すると、日本人ユーザーは不親切に感じるかもしれない」と思うテキストがあれば、言葉を補うなどしてなるべく分かりやすい日本語に翻訳するべきだと思います。

一つ例を挙げると、過去に私が翻訳したPC用アクションゲームの中に、以下のようなチュートリアルテキストが含まれていることがありました。

Type "recover" to heal your health at the first aid station.

これを直訳すると、「救急室で"recover"と打ち込むと、体力を回復することができます。」となりますが、実際にゲームをやってみると、このテキストが少々分かりにくいテキストであるように思えたのです。
具体的には、
①救急室の中ならどこでもいいわけではなく、テーブルの上にある救急用具入れの前で打ち込まなければならない
②一度体力を回復すると、同じ場所で「recover」と打ち込んでも二度と体力は回復しない
という仕様になっていたのです。そのため、より正確に説明するために、救急用具入れの前で「recover」と打ち込むと、一度だけ体力を回復することができます。」と、言葉を補って翻訳しました。


・日本人ユーザーに合わせた翻訳を

出版翻訳や産業翻訳の世界では、「原文から何も足さない、何も引かない」ことがよしとされる風潮があります。しかしゲーム翻訳では、上の例のように、時には原文から離れたり言葉を補ったりした方が良い場合もあります。基本的に、ゲーム翻訳者は、ただの翻訳者ではなく、ローカライザーの一員であるという自覚を持つべきだと思います。 ただの翻訳者であれば、あくまで原文に忠実な翻訳を心がけるべきかもしれませんが、ローカライザーとして翻訳作業にあたるからには、やはり日本語版ユーザーの目線に立った翻訳を心がけるべきだと考えます。

原文の意味を変えることに抵抗を感じる人もいるかもしれませんが、上の例のような異訳は、誤訳だと指摘されることはまずありません。 実際、私は毎回、上の例のように言葉を補ったり省いたりしながらインゲームテキストの翻訳をしてきましたが、プロデューサーやディレクターなどはもちろん、ユーザーからも「これは誤訳だ」と指摘されたことは一度もありません。

ただし、クライアントの事情も様々であるため、時には、「スピードを重視するために直訳してくれ」や、「専門のライターに書き直させるから、意味が正確に伝わるように直訳してくれ」といった依頼をされる場合もあるようです。そのような場合はクライアントの要望に従い、原文に忠実な翻訳をすべきかもしれません。

また、「ユーザーフレンドリーなテキストか否かの判断が難しい」という人もいるかもしれません。実際、日本人ユーザーの目線に立って翻訳するというのは、一朝一夕で身につけられる能力ではないと思います。そのためには、やはり、普段から日本のゲームをプレイしてインゲームテキストに対する感性を磨いておくことが重要です。



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世界の半分をやろう

世界の半分_J 世界の半分_E


「もしわしの味方になれば世界の半分をやろう」
“I give thee now a chance to share this world and to rule half of it if thou will now stand beside me.”

「昨夜はお楽しみでしたね」で説明しましたが、ドラゴンクエスト1が英語版(Dragon Warrior)にローカライズされる際、中世ヨーロッパの雰囲気を出すために中世英語を使った翻訳がなされました。
theeとthouはともに、現代英語のyouにあたる代名詞です。現代英語では、目的語であっても主語であっても形はyouで統一されていますが、昔は変化があったんですね。

「自分の仲間になる」という意味での"stand beside me"は初めてお目にかかりました。「自分の横に立つ」=「自分の側にいる」=「自分の仲間になる」ということですね。"stand by me"と同じような使い方でしょうか。
もし私が英語版を先にプレイしていたら、字面通り、竜王の横のマスに立つことだと勘違いしていたと思います…(笑)

日本語版ではキャラの向きが正面しかなかったので、自然と"stand beside me"の状態になってますね。
世界の半分_J2



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昨夜はお楽しみでしたね。

Innkeeper_J Innkeeper_E

「昨夜はお楽しみでしたね。」
"Thou hast had a good night's sleep I hope."

ご存知の方も多いかもしれませんが、初代ドラクエ(Dragon Warrior)の英語版では、キャラクターのセリフやシステムメッセージで“中世英語”が多用されました。ドラクエが持つ中世ヨーロッパ的な世界観に中世英語が合っていると踏んだのでしょうね。ちなみに、不評だったのか、ゲームボーイ版などでは中世英語はほとんど使われず、現代英語に直されてしまいましたが・・・。

上記のセリフを現代英語にすると、"You have had a good night's sleep I hope."となります。直訳すると、「よくお眠りになられたなら幸いです」みたいな感じですね。

言うまでもなく、日本語版の方はちょっとした言外の意味が含まれていますが(笑)、上記の英訳にはそういった卑猥なニュアンスは含まれていません。にもかかわらず、英語版でも、勇者一人で宿屋に泊まった時とローラ姫(Princess Gwaelin)を抱きかかえた状態で泊まった時とで店主のセリフが若干異なるので、なぜセリフが変わるのか?と疑問に思った海外ユーザーもいたそうです。

ちなみに、後に発売されたゲームボーイカラー版では、以下のように英訳されました。

昨夜は_GB

"You were up late!"(遅くまで起きていらっしゃいましたね!)

こちらは思いっきり「そういう意味」になっていました…!



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Ungaahhhh! 【ウボァー!】

『ファイナルファンタジーII』のラスボスである「皇帝」の断末魔の叫び。日本では、シリーズ史上屈指の名フレーズとして知られているが、英語版のほうは別段珍しい叫び声ではないため、英語圏のユーザーの間では特に有名なセリフとはならなかった。

ウボア_E



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ゲーム翻訳 13 ~未使用のテキスト~

<実際は使われないインゲームテキスト>


「ゲーム翻訳 2」でも説明しましたが、ゲーム翻訳では、エクセル形式のファイルを使って翻訳作業を進めていくことがほとんどです。しかし、テキストファイルの中には、実際にゲーム中で使われることのないテキストが含まれている場合もあります。 ちなみに私自身の経験では、ほぼ毎回、テキストファイルに未使用テキストが含まれています。今回は、そのような未使用テキストについて説明していきたいと思います。


・なぜ未使用のテキストがファイル中に含まれているのか?

テキストファイルは基本的に開発元のプログラマーが作成します。プログラマーは、ソースコードに含まれる全てのインゲームテキストを抜き出し、エクセルファイルに貼り付けてテキストファイルを作成します。つまり、ソースコードに含まれているテキストは、実際のゲーム中で使われるか否かにかかわらず、インゲームテキストとしてテキストファイルに貼っ付けられるのです(もちろん、そうでない場合もあるとは思いますが)。
翻訳者の立場からすると、「ゲーム中で使われるテキストだけを抽出してほしい」と思いますが、それにはかなりの手間がかかってしまうそうです(「それでもやれ!」と言いたいですよね)。


・未使用テキストの例

ソースコードには含まれるけど実際のゲームでは使われないテキストとは、例えばどんなものがあるのでしょうか?

1. 実装されなかった仕様に関するテキスト
ゲームの開発では、途中まで実装するつもりだった仕様が、何らかの事情により削除されることが頻繁にあります。
一つ例を挙げると、RPGのモンスターなどがそうでしょうか。実装予定だったモンスターを最終的な仕様から外す場合もあれば、最初からテスト目的で作っていたモンスターを開発途中で仕様から外すという場合もあります。そのような場合、そのモンスターのデータ(名前など)がソースコードの中に残っていることがあるのです。そして、そういったデータがテキストファイルに含まれる、というわけです。

余談ですが、ロムを改造することによって、未実装のモンスターをゲームに出現させて遊ぶ人もいるようです↓

(例)ロムデータには入っているが実際のゲーム中には出現しないモンスター
DQ5_幻のモンスター

2. デバッグモードのテキスト
多くのゲームでは、開発途中にデバッグモードという機能が実装されます。デバッグモードとは、キャラクターのレベルを好きなだけ上げることができたり、欲しいアイテムを自動的に手に入れたり、ゲーム中の行きたい場所に瞬時に行けたりする、夢のようなモードです。詳しい説明は省きますが、デバッグモードを実装するのはデバッグ作業を効率よく進めるためです。
インゲームテキストの翻訳をする上でもデバッグモードのお世話になることがありますので、翻訳者もデバッグモードの存在は知っておいた方がいいでしょう。
もちろん、デバッグモードは最終的な仕様からは削られますが、ソースコード中にデバッグモードのデータが残っていることがあります。そのため、デバッグモードでのみ使用されるテキストがテキストファイルの中に含まれていることがあるのです。「デバッグモード」や「デバッグコマンド」という言葉が含まれているテキストは、デバッグモード特有のテキストである可能性が高いです。

(例)ドラゴンクエスト5のロムを改造して、デバッグモードを出している画像
DQ5_デバッグ


・未使用テキストへの対応

「ゲーム翻訳 3」でも説明したとおり、インゲームテキストの翻訳は、実際にゲームをプレイしながらできる場合とそうでない場合があります。
前者の場合、各テキストをゲーム中で確認しながら翻訳していくことになるため、ある程度は未使用のテキストを特定することができます。未使用のテキストを特定した場合、または、未使用テキストかどうか判断のつかないテキストがあった場合(実際はこのような場合の方が多いです)、それらのテキストをまとめて開発元に報告するといいでしょう。 答えてもらえない場合も多いですが、開発元のプログラマーがチェックすれば、それらのテキストが実装されているか否かを特定することができるかもしれません。
ゲーム内で発見できなかったテキストの横に印を付けるなどして、未使用と思われるテキストをハイライトしておくと、後でローカライザーや開発元に報告する際にまとめやすくなると思います。

また、そういった、ゲーム中で発見できないテキストの多くは、用途や意味が分からないため翻訳がしにくいと思いますが、そうであってもとりあえずは日本語に翻訳しておくのがいいと思います。 これは、未使用だと思われていたテキストが実際は使用されている、ということがあるからです。そして最悪の場合、翻訳者、ローカライザー、デバッガーがそのテキストをゲーム中で見かけなかったにもかかわらず、発売後にユーザーがそのテキストと出会ってしまう可能性もあるのです。そのようなことが起こった場合、そのテキストが英語のままだと、ワケがわからずバグだと勘違いされてしまうかもしれません(というか、それはもはやバグです)。しかし、日本語に翻訳されていれば、例え意味の分からない不自然な日本語であったとしても、とりあえずは格好がつき、ユーザーに不信感を与えずに済む可能性もあります。ただし、「Do not translate.」などと書かれているテキストは、翻訳する必要がないことが明らかなので、英語のまま放置しておいて問題はないと思います。

最後にもう一つ。ゲーム内で発見できないテキストが多い場合、それらを全て開発元やローカライザーに報告するのは気が引けるかもしれません。しかし実際、ゲーム内で発見できないテキストというのは、私の経験上、毎回かなり多く存在します。 まともな開発会社やローカライザーなら、その辺りの事情はちゃんと心得ているはずなので、ゲーム内で使用されているかどうか怪しいテキストは遠慮せずにどんどん報告して差し支えないと思います。

ちなみに個人的には、ゲーム翻訳をやる上で最も煩わしいのが、この未使用テキストの存在だと思っています。 プログラミングのことはよく分かりませんが、テキストファイルを作成する際に実際に使われているテキストだけをピックアップしてくれるような、そういったエンジンが開発されたらすごく助かるな~といつも思っています



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ゲーム翻訳 12 ~バグレポートで使われる英語~

<インゲームテキスト以外のゲーム翻訳 その2>


「ゲーム翻訳 11」では、バグレポートの翻訳についてザッと説明しました。
ゲームのデバッグ作業では、普通、最低でも数十件、多ければ数百件~数千件ものバグが見つかり、その種類も実に様々です。前回も説明した通り、英語のゲームをローカライズする場合、テスターから報告されたバグの詳細(バグレポート)を英語に翻訳し、それを海外の開発元に送る必要があります。バグレポートの翻訳は、ローカライザーが社内のリソースだけで対応する場合もあれば、外部の翻訳会社やデバッグ会社に依頼する場合もあります。


・バグに関する英語

今回は、バグレポートで使われる英語表現について、具体的に説明していきたいと思います。ゲームのバグをバグレポートで説明する際、どのような英語表現が使われるのでしょうか? 比較的どんなゲームでもよく見つかるバグに限定して説明します。

(注)この記事で取り上げる英語表現は、あくまで一例であり、同様の事象を表す英語表現は他にもたくさんあると思います。参考程度にご覧いただければ幸いです。


1. フリーズ、ハングアップ
ゲーム画面が突然停止し、進行不能になってしまうという、ゲームにとって最も致命的なバグの一つです。
英語で「~をするとゲームがフリーズする」という場合は、単純に、
The game will hang when ~
The game will freeze when ~
で伝わります。日本語では「フリーズ」の方がよく使われますが、私の経験上、英語ではfreezeよりもhangの方が多く使われるような気がします。

他には、ゲームが進行不能に陥るという意味で、"get stuck"なども使われます。
(例)ゲームがフリーズして進行不能になった→The game got stuck.

最近では、PS3の『ヘビーレイン』でフリーズが頻発すると話題になりましたね。『ヘビーレイン』も海外ゲームですが、実際、海外ゲームは日本のゲームに比べてフリーズ率が異常に高いです。そのため、バグレポートの翻訳をする際、これらの英語を使う機会は多いと思います(多くちゃマズイんですけどね…)。

2. PCゲームの異常終了
PCゲームでは、突然ゲーム画面が止まって勝手に終了してしまうことがあります。上記のフリーズと同じく、最も致命的なバグの一つです。
PCゲームの場合、ゲームが終了すると画面がデスクトップに戻ることから、こういった異常終了のことを「クラッシュ・トゥ・デスクトップ」(Crash To Desktop)と表現します。英語では、頭文字を取ってCTDと略されることもありますね。
(例)
町の住民に話しかけたらゲームが異常終了した。
→A Crash To Desktop occurred when talking to the townsman.

3. コリジョンバグ
ゲームをやらない方にはあまり耳馴染みのない言葉かもしれませんが、コリジョン(collision)バグというのは、「オブジェクト同士の接触の仕方がおかしい状況」を表します。
と、言葉で説明されてもよく分からないと思いますので、下の画像を見てください。

Clipping1

思いっきり顔がめり込んでますね…(笑)
本来、顔同士の接触位置が正しく設定されていれば、お互いの顔がめり込んでしまうことはないですよね。このように、オブジェクトが不自然な接触をしているバグを「コリジョンバグ」といいます。そして英語では、コリジョンバグを説明する時に"clip"という単語をよく使います。
例えば、上の画像をバグとして説明するのであれば、
One player's face is clipping another one's face.
などと表現します。

また、単にめり込んでいるだけではなく貫通してしまっている場合は、"clip through"なども使われます。
下の画像を見てください。

Clipping2

銃を支えている左手が銃の本体を貫通しています。
これをバグとして報告する場合、
His left hand is clipping through the rifle.
などと表現することで意味は伝わるでしょう

4. 作成基準違反
ゲームを各プラットフォームで発売する際、それぞれのハードメーカーが定める作成基準に準拠していなければなりません。例えば、Wii用のゲームを作る場合は任天堂が定める作成基準に従い、PS3用のゲームを作る場合はSCEが定める作成基準(TRC)に従わなければならないのです。実際、開発途中のゲームでは、作成基準に違反している挙動が多く見受けられるため、そういった挙動がデバッグ作業で見つかり次第、開発元に報告し、修正してもらう必要が出てきます。
作成基準に「違反している」と表現する場合、英語では"be in conflict with""violate"などが使われます。
(例)
~をするとコントローラーが約30秒間振動する。この挙動はTRCの…に違反している。
→When doing ~, the controller will rumble for about 30 seconds. This behavior is in conflict with TRC ….

5. 処理落ち
ゲームでは処理落ちが起こることがあります。詳しい説明は省きますが、アクションゲームなどで敵がいっぱい出てくると画面の動きがスローになってカクカクすることがありますよね。あれが処理落ちです。
「処理落ちが起こる」ということを英語で報告する際、私はいつも"slowdown"や"frame rate issue"などの表現を使っています(他にも言い方があるかもしれません)。
(例)
~で…をすると激しい処理落ちが発生する。
→When doing … in ~, the game will suffer from extreme slowdown (または、severe frame rate issueなど).

6. 文字化け
海外ゲームに日本語テキストを組み込む際、フォントの問題で日本語が文字化けする現象がよく起こります。
文字が化けると言う場合、"be garbled"などの表現が使われます。
(例)
「家」という漢字が文字化けし、□で表示されている。
→The Chinese character "家" is garbled, and displayed as "□".

7. テキストのはみ出し
こちらもローカライズタイトルでよく起こる現象の一つです。インゲームテキストを日本語に翻訳すると、原文の英語テキストよりも文字サイズが大きくなったり文字数が多くなったりして、テキストの一部がテキストボックスからはみ出してしまうことがあります。
Bleeding

このようなバグを開発元に報告すると、ボックスを拡大したり、その日本語テキストのサイズを縮小するなどの方法で対応してくれることがあります。対応してもらえない場合は、もっと短い日本語表現を考えなければなりません…
テキストが「はみ出す」ことを、英語では"bleed"などを使って表現します。
(例)
The text is bleeding outside of the box.

8. これは仕様ですか?
バグらしき現象を発見したけど、バグなのか仕様なのかいまひとつ分からない、という場合があります。そのような場合、その現象をとりあえずバグとして報告し、開発元からの返答(仕様か否か)を待つといった対応が取られるケースもあります。
ネット界では、ほぼ皮肉的に使われるこのフレーズですが…(笑)
英語では以下のように表現します。
Is this the intended (designed) behavior?
Is this by design?
Is this spec?



とりあえずは以上ですが、このページは適宜アップデートしていくかもしれません。ここで取り上げたバグの他にも、ゲームには多くの種類のバグが存在します。バグレポートの翻訳に興味がある方は、海外のユーザーサイトなどでバグに関する話題を探し、そのバグを表す英語表現をストックしておくと非常に役に立ちます。



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ゲーム翻訳 11 ~バグレポートの翻訳~

<インゲームテキスト以外のゲーム翻訳


「ゲーム翻訳 1」で、当ブログではゲーム翻訳=インゲームテキストの翻訳」と定義すると述べましたが、インゲームテキストの翻訳以外にも、ゲームのローカライズに伴う重要な翻訳作業があります。
それが、今回説明するバグレポートの翻訳です。


・バグレポートとは

ゲームの開発には必ずデバッグという作業が含まれます。デバッグとは、開発途中のゲームを数人~数十人のテストプレイヤーがプレイし、ゲームが突然止まったりするなどの不具合(バグ)がないかどうかを検証する作業のことです(詳しくは、Wikipediaの「デバッグ」をご参照ください)。
デバッグ作業中、テストプレイヤーはバグを発見するたびに、そのバグを詳しく説明するためのバグレポートを書きます。そのバグレポートを各担当者(プログラマーやデザイナーなど)に回覧し、担当者がそれらのバグを一つ一つ直していくことで、開発途中のゲームから不具合を取り去っていくというわけです。


・ローカライズにおけるバグレポート

では、何故このバグレポートを翻訳する必要があるのでしょうか?
海外ゲームの日本語版を開発する際、デバッグ作業は、そのゲームの日本語版を発売するパブリッシャーやローカライザーの下で行われることが一般的です。それに対し、発見されたバグを直すのは海外の開発元です(もちろん例外もあります)。そのため、日本語で書かれたバグレポートを海外のプログラマーやデザイナーに読ませるために、誰かがバグレポートを英語に翻訳する必要が出てくるわけです。

日本人のテストプレイヤーがゲームをプレイし、バグを発見する

テストプレイヤーが、そのバグを詳しく説明するためのバグレポートを書く

翻訳担当者が、そのバグレポートを英語に翻訳する

英語に翻訳したバグレポートを海外の開発元に送る

開発元の担当者(プログラマーなど)が、そのバグを修正する


・バグレポートは誰が翻訳するの?

バグレポートの翻訳者は、プロジェクトによってまちまちです。バグレポートの量が少なければ、社内のローカライズ担当者や英語のできる社員だけで翻訳を回していくこともあるでしょう。しかし、短期間に集中して大規模なデバッグを行う場合などは(大型タイトルや開発期間の短いタイトル)、一日に数十件ものバグレポートが上がってくることもあります。そのようなことが予想される場合、ローカライザーは、外部の翻訳会社やデバッグ会社にバグレポートの翻訳を依頼することもあります。デバッグ会社と書きましたが、最近ではデバッグ会社が登録翻訳者を持ち、社内でデバッグとバグレポート翻訳の両方を兼ねているケースもあります。

「英語→日本語」のローカライズの場合、バグレポートは日本語→英語に翻訳することになります。ですので、翻訳会社やデバッグ会社によっては、バグレポートの翻訳を日本人ではなくネイティブの翻訳者に任せる場合もあります。しかし、基本的にバグレポートは意味さえ伝わればよいものであるため、英訳とはいえ、そこまで高い英語力は求められません。 そのため、ローカライザーでも翻訳会社でも、日本人にバグレポートの翻訳を任せるケースもあります。ゲーム翻訳に関わるのであれば、バグレポートの翻訳も視野に入れておくと仕事の幅が広がるかもしれません。バグレポート翻訳の求人を探したいと思ったら、翻訳会社だけではなく、デバッグ会社の採用ページなども覗いてみるといいと思います。


・なんでわざわざ日本語版でもデバッグをするの?

ここで、「オリジナル版でデバッグをしたんだから、日本語版でデバッグをする必要はないんじゃないの?」と疑問に思われる方もいるかもしれませんが、実際、デバッグはしなきゃいけないんです。

まず、海外のゲーム会社は日本のゲーム会社に比べてデバッグが適当です。 というか、日本のゲーム会社が丁寧すぎると言った方が正しいですかね。これはもう文化の違いとしか説明できないのですが、欧米では作り手の間にもユーザーの間にも「細かいことは気にすんな」的な空気があります。ゲームを作る側もプレイする側も、日本人ほどディテールにこだわらないんですね。また、欧米ではコンシューマゲームであってもパッチの配布が多いため、「とりあえず発売して、バグが問題になったらパッチを配布すればいいか」と考える開発者が存在するんです。そのため、重大なバグがたくさん残っている状態でゲームを発売するなんてことは、欧米では当たり前なんですね。

しかし、「モノづくりの国」日本ではそうはいきません。発売後に重大なバグがいっぱい見つかったりしたら、その噂がゲーマーの間で一気に広がり、そのゲームを発売した会社のブランドイメージを大きく下げることにつながりかねません。そのため、例えオリジナル版が既に発売していて、ある程度バグがなくなっているとしても、日本語版では更に綿密にデバッグをしなければならないのです。


・バグレポート翻訳のポイント

基本的にバグレポートは、ゲーム中の

1. この場所で
2. こういう行動を取ると
3. こういった不具合が起こる
4. しかし本来はこういう挙動であるべきだ


という四点について書かれているものです。
(例)最初の町で宿屋に泊まっても体力が回復しない。体力が回復するように修正してほしい。
→When taking a rest in the inn at the first town, the characters' health will not be restored, but it should recover their health.

もちろん、中には一枚で数百文字に渡る複雑なバグレポートもありますが、基本的に上記の四点がネイティブに正しく伝わるのであれば、多少は拙い英語でも構わないと思います。上の英訳は私が翻訳したものですが、このレベルで十分意味は伝わります。
それに、海外では日本よりも企業同士の関係がフランクであるため、特に敬語などに気を遣う必要もありません。実際、自分もきちんと英訳の勉強をしたわけではありませんが、バグレポートの翻訳をしていて、意味が全然伝わらなかったり問題を起こしたりしたことは一度もない、と思います…。

しかし、英語力そのものは重要じゃないとしても、テレビゲームに関する英語をどれだけ知っているかということは、ある程度重要になってきます。これは日本のゲーム業界にもいえることですが、ゲームの世界にはゲームの世界特有の用語がたくさんあります。 例えばゲームの世界では、キャラクターの残り数を表す際に、そのキャラクターが人間であっても「1機、2機」と表現しますが、本来、「機」には人間を表す意味は含まれていないでしょう。そういったゲーム用語は英語にも多く存在しますので、英語のゲーム用語を多く知っていれば知っているほどバグレポートの内容を開発者に分かりやすく簡潔に伝えることができ、作業スピードも上がります。
(例:1面、2面→Level 1, Level2  体力ゲージ→life bar, health barなど)


・ゲーム用語の勉強方法

普通に英語を勉強しているだけでは、おそらくゲームの世界で使われる英語はほとんど身につかないでしょう。ゲームの世界特有の表現というのは、英語の参考書や辞書を見てもあまり載っていないものです。
ゲーム用語を身につけるためには、やはり日ごろから海外のゲームをプレイしたり、海外のゲーム系サイトに目を通したり、海外のゲーム雑誌や攻略本を読んだりすることが必要になってきます。特に、英語の説明書や攻略本を読むと、プレイヤーの操作やキャラクターの挙動に関する英語表現がたくさん身につくのでオススメです。攻略本を購入するのが面倒だったりお金をかけたくない方は、インターネットの攻略サイトを見るだけでも十分勉強になります。Googleなどで「ゲーム名 walkthrough」で検索すると、海外の攻略サイトがいっぱい見つかります。
そういった場所でよく使われているゲーム用語をストックしておくと、バグレポート翻訳の精度だけではなく、インゲームテキストの翻訳スピードも上がってくるかもしれません

次回は、バグレポートで使う英語について、もう少し詳しく説明したいと思います。



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ゲーム翻訳 10 ~表現を統一する~ 

ゲーム翻訳における、英語表現への対処>


ゲーム翻訳というより、翻訳全般にもちょっと関わるお話になりますが、
まず、下の二つのメッセージを読み比べてください。

SirenJ SirenE

バッツが目を覚ました!→Barts snaps out of it!
レナが目を覚ました!→Lenna comes to her senses!
ファリスが目を覚ました!→Faris leaves her trance!


これは、某RPGで三人のキャラクターが同時に失神状態から目覚める場面です。日本語版では、失神状態から抜け出したことを「目を覚ました」という表現で統一しているのに対し、英語版では異なる表現を使い分けています。


・言語文化の違い

英語では、一人の人物や一つの物事を何度も述べる際に、それぞれ異なる表現を使って表すことが多いですよね。

(例)
Kate is 4 years old. The little girl goes to kindergarten.
ケイトは四歳です。この少女は幼稚園に通っています。)

例えば上の文章では、主語のKateを繰り返すことを避け、二文目では「The little girl」と表現しています。このような表現の使い分けは、英語の文書を読んでいると頻繁に見かけます。ネイティブに尋ねてみたところ、同じ表現を短期間に何度も使うとボキャブラリーの少なさを露呈し、稚拙な印象を持たれてしまうそうです(真偽のほどは不明ですが)。

もちろん、これはゲームに限った話ではありません。学術論文のような簡潔・論理的に書かなければいけない文書ですら、英語で書かれたものを読んでみると、このように一つの事象を異なる言葉で表現する傾向が見られます。


・どのように翻訳するか?

では、このような異なる表現を翻訳する際、どのような日本語に翻訳するのが良いのでしょうか?

例えば、上の画像のような英文を訳すとしたら、
①日本語版のように、「~は目を覚ました」などの表現で統一するべきでしょうか?
②それとも、英語版の表現を尊重して、「バッツは我に返った!レナは意識を取り戻した!ファリスは失神状態から抜け出した!」などと、それぞれ表現を分けて翻訳するべきでしょうか?


外国小説の翻訳版などを読んでみると、そのまま(異なる表現で)直訳されていることが多いですよね。小説の世界のことはよく知りませんが、「多少不自然な日本語になってもいいから、なるべく原文の雰囲気を残したまま翻訳してほしい」、「著者のオリジナルの表現を楽しみたい」と考える読者が多いのでしょうか。


ゲーム翻訳の場合

ゲーム翻訳でこのような表現に出会った場合、おそらく賛否両論あると思いますが、「日本語として自然な場合のみそのまま(異なる表現のまま)翻訳し、不自然な場合は一つの表現に統一する、もしくは言葉を補う」のがいいと、個人的には思います。ゲームのテキストとしては、上の②のような文章(異なる表現を使っている文章)は、何か仰々しい感じがして不自然だからです。それに上の例の場合、表現を使い分けることによって、何か重要な意味があるのではないかと誤解されてしまう可能性もあると思います。キャラクターのセリフならまだしも、上記のようなシステムメッセージにおいては、できるだけ一つの事象は同じ表現で表すのが親切ではないでしょうか。

実際、PCゲームなどに多いような気がしますが、異なる英語表現を直訳しているゲームもたまに見かけます。個人的に大好きな某スポーツゲームでそのような翻訳傾向が見られるのですが、やはりそのゲームのファンの間では、「ゲーム自体はよくできているのに日本語が分かりにくいのがタマにキズだ」という意見が非常に多く見受けられます(タイトルは明かせません、すいません…)。

ちょっと乱暴な意見かもしれませんが、小説や映画などとは違い、ゲームの世界ではテキストやシナリオライターに対するリスペクトは薄いような気がします。これは、ゲームが芸術や文学ではなくエンタメコンテンツであるという性質を考えると当然のことかもしれません。そのため、ユーザーにとっては「原文に忠実な翻訳=良いゲーム翻訳」とは限らないのです。

そんな事情もあり、ゲーム翻訳では原文の表現を一字一句忠実に再現することよりも、ユーザーにとって読みやすいテキストに翻訳することの方が重要だと、個人的には思います。日本語が不自然だと、それだけでユーザーの楽しみを損ねたり、翻訳者が叩かれたりするんですよ、実際…
ゲーム自体がよくできているのにテキスト面で叩かれることになったら、オリジナル版の開発者も浮かばれませんよね(笑)



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