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ゲーム翻訳 4 ~あえて英語を残す~

<ゲーム翻訳独特の要素 その1>


「ゲーム翻訳 1」で説明した通り、ゲーム翻訳には他の翻訳分野にはない独特の要素が多く存在します。その一つが、今回説明する、「英語で表示すべきテキスト」です。


・ゲームには英語のテキストが多い

ゲーム翻訳では、一部のテキストをあえて英語のまま残すことが頻繁にあります。ゲームをよくプレイする人ならご存知かと思いますが、日本で作られたゲームの中でも英語のテキストが使われることって結構多いんですよね。

これには大きく二つの理由が考えられます。
一つ目は昔のなごりです。
ファミリーコンピューター時代など、まだゲームのロムがカートリッジだった時代は、メモリ容量の問題で日本語を組み込めないことがありました。たった26種類のアルファベットしか使わない英語に対して、日本語には平仮名、片仮名、漢字と、膨大な数の文字が存在します。必要な日本語を全て組み込むとなるとかなりの容量を食ってしまうため、英語しか使われていないゲームが昔は多かったのです(そのせいで意味の分からないテキストがいっぱいありました)。
現在でも、ゲームの中で英語テキストが多く使われていますが、これは「英語を使う」という文化(?)がゲームの世界に根付いていることが理由の一つとして考えられます。

二つ目の理由は、単純に英語がカッコいい印象があるからです。
特に欧米風の世界観やグラフィックを持つゲームでは、漢字や平仮名を多用すると雰囲気が損なわれてしまうこともあります。ローカライズされるゲームは、当然、欧米風の世界観を持ったゲームが多いので、純日本製のゲームよりも英語を使うべき機会は多いかもしれません。
ちなみに、ヨーロッパのユーザーは英語に対してそこまでエキゾチックな印象を持っていないせいか、英語からFIGS(フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語)に翻訳される際、ほぼ全てのインゲームテキストが英語からターゲット言語に翻訳されることが多いように思えます。


・英語のまま残すテキストの例

上で説明した通り、日本のゲームでは当たり前のように英語が使われるので、インゲームテキストの翻訳をする際にも、日本語に翻訳しないで英語のまま表示させた方がユーザーにとって自然に見えるテキストが多く存在します。そのため翻訳者は、どのテキストを英語で表示し、どのテキストを日本語に翻訳するべきか判断しながら翻訳作業を進めていかなければなりません。

私の経験では、以下のようなインゲームテキストを英語のまま残すことが多かったと思います。

1. スポーツゲームにおける試合中のテロップ
数あるゲームジャンルの中でも、スポーツゲームでは特に英語を多く残す傾向があります。 以前、とあるスポーツゲームの翻訳をした際に、インゲームテキストの半分以上を英語のまま残したこともありました(監修者からのアドバイスで)。

試合中のテロップとは以下のようなものです。

RingsHUD TennisHUD
UFCHUD

三枚とも、日本で放送されたスポーツ番組からのキャプチャですが、テロップ中のインフォメーションは全て英語で表示されています。地上波のダイジェスト放送では、これらのテロップが日本語で表示される場合も多いですが、生中継やCS放送などでは英語のまま表示されることも多いですよね。
そのため、欧米風のリアルなグラフィックのスポーツゲームの場合、試合中に表示されるテキストが英語のままになっている方が、テレビ中継を見ているみたいで臨場感が増すこともあるのです。

特に会場にある電光掲示板のテキストなどは、例え耳慣れない英語が使われていたとしても英語のまま残すべきでしょう(日本が舞台のゲームなら別ですが)。
Scoreboard


2. リズムゲームの評価メッセージ
『ダンスダンスレボリューション』や『ギターヒーロー』などのリズムゲームでは、ボタンを押すタイミングを評価するテキストがあります(「Good、Poor、Perfect!」などのアレです)。
以前、某リズムゲームの日本語版で、これらのテキストが「良い」、「ものすごい」、「完璧」といった具合に丁寧に日本語化されたことがありましたが、リズムゲームファンからすると逆に不自然だったようです↓

BoomBoom

リズムゲームの多くは洋楽バンド風のクールな世界観を持っていますので、曲を演奏している最中に表示されるテキストはなるべく英語のまま残した方が雰囲気を損なわずに済むと思います。もちろん、『太鼓の達人』のような和風のリズムゲームは別です。


3. 英語ボイスとともに表示されるテキスト
キャラクターのセリフ以外でも、英語のボイスとともに表示されるテキストがあります。分かりやすい例が、格闘ゲームの「Round 1 Fight!」や「Time Up」といったメッセージです。

Round1

英語のボイスとともに表示されるテキストは、日本語で表示すると不自然に見えてしまうことがあります。例えば、「Time Up」という英語ボイスとともに「時間切れ」というテキストが表示されたら、少し不自然に感じますよね。仮に日本語に翻訳するとしても、できるだけカタカナ英語を使うべきでしょう(「タイムアップ」など)。
もちろん、長いテキストや、意味が分からないとプレイに支障をきたすようなテキストの場合は、例え英語のボイスとともに表示されるとしても日本語に翻訳するべきです。


4. 「Now Loading」、「Saving」といった、処理中のメッセージ
これらのテキストは日本のゲームでも英語で表示されることの方が多いですよね。ただし「Now Loading」単体ではなく、「Now loading. Do not turn off the power.」のように文章の一部として表示される場合は、「Now loading. 電源を切らないでください。」とするよりも、「ロード中です。電源を切らないでください。」と日本語に翻訳する方が自然です。


5. スタッフロール
ローカライズタイトルでは、スタッフロールの中に開発元のスタッフの名前が含まれます。外国人の名前や海外企業の役職名は日本語に置き換えられないものも多いので、普通、ローカライズタイトルのスタッフロールは全て英語のまま流します。 テキストファイルの中にスタッフロールのテキストが含まれているケースも多いですが、何も手を加えずにそのまま日本語のセルにコピペしてしまいましょう。
日本語版の製作スタッフのみ日本語で表示する場合もありますが、そのような判断はローカライザーの方でするので、翻訳者は特に何も気にする必要はありません。


6. その他、日本のゲームでも英語で表示されることが多いテキスト
・RPGにおける「HP」や「MP」などの、ステータスを表す略語←マニュアルに説明があるはずなので、英語のままで問題ありません。

・タイトル画面の「Press START」、「Press Any Button」など←対象年齢が低いゲームでは、日本語で表示されている場合もあります。
PressStart

・ゲームオーバー画面の「Game Over」や「Continue?」

・アーケードゲームの移植版などで見る「Credit(s)」←スタッフクレジットではなく、ゲームプレイの残り回数を表すクレジットです。
Credits

・著作権表記←下の画像のようなものです(見にくくてすみません)。
Trademark1 Trademark2
※右の画像には、「© 2008 Gearbox Software, LLC. All Rights Reserved.」などの事項が書かれています。

・ESRB(CEROの北米版)からの警告
Online Interactions Not Rated by the ESRB.
Game Experience May Change During Online Play.
二つとも同じ内容の警告文で、要するに、「オンラインプレイはレーティング対象外です」という意味になります。例えばゲーム本編に汚い言葉が出てこないとしても、オンラインで他のプレイヤーとチャットをしている時には、「Fuck you!」などと暴言を吐かれる可能性があります。また、オンラインでは、他のプレイヤーがゲームを改造して作った裸のキャラクターが出てきたりする可能性もあります。そういった自由度の高いオンラインモードは、明確なレーティングを付けることができないんですね。
上の二つの警告文はテキストファイルに含まれていることが多いのですが、特別な理由がない限り日本語に翻訳する必要はありません(最近では二つ目の警告文は見かけないですね)。



・テキストを英語のまま残す際の注意点

上で挙げた例のように、ゲーム翻訳では一部のテキストを英語のまま残すことも珍しくありません。しかし、その際に注意すべき事項が二点あります。

一点目は、同じボックス内(同じインターフェース内)で表示されるテキストはなるべく全て日本語か英語に統一した方がいい、ということです。これは単純に、ひとつのボックス内に英語と日本語が混在していると見栄えを損ねる場合があるからです。
例えば、メインメニューのボックスが以下のようになっているよりも、
MainMenuEngJap

以下のようになっている方が、(若干ですが)見栄えがいいと思いませんか?
MainMenuJap MainMenuEng
まあ、一つ目の画像のように英語と日本語が混在するメニューボックスも見たことがありますので、ユーザーが気にするほどの違和感はないのかと思われます。


続いて二点目は、必要に応じて英語を他の英語に置き換える、ということです。
例えば、オプションメニューを英語表記で統一するとして、オプションメニューの中に、以下のような「Statistics」(「統計」)という項目があるとします(洋ゲーでは結構お目にかかります↓)。
Stats2 Stats1
「Statistics」とは、プレイ時間や戦闘回数、アイテム回収率といった、ゲームプレイに関する統計を見られる画面のことです。
しかし、いかんせん「Statistics」という英語は私たち日本人には馴染みのない言葉ですよね。ですので、そういった英語は「Play Data」や「Play Record」など、日本人ユーザーにとって分かりやすい他の英語に置き換えてしまうのも一つの手です。日本語版として日本で販売する以上、ターゲットユーザーは日本人ですので、ネイティブから見て多少不自然な英語だとしても、日本人ユーザーにとっての分かりやすさを尊重した方がいい場合もあります。
ただし、スポーツやミリタリーなどの専門用語の場合は、馴染みのない英語でもそのまま使うべきでしょう。下手にそういった英語を他の英語に置き換えると、その分野のコアなファンに不満を与えてしまう可能性もあります。

英語を他の英語に置き換える例として、以下のようなケースがあります。

・Leaderboard(ランキング表)→Rankingなど
「順位」を表す「Position(Pos.)」も、「Ranking(Rank)」とした方が分かりやすくなるでしょう。(「位置」の意の「ポジション」と紛らわしいからです)

・Choose→Select
何かを「選ぶ」というとき、英語のゲームでは「choose」を使うことが多いのですが、日本のゲームでは圧倒的に「セレクト」(select)を使うことが多いと思います。

・Done→OK、End
名前入力やパスワード入力の画面で、「入力を完了する」という意味で「Done」が使われる場合がありますが、日本人にとってこの意味の「Done」はあまり馴染みがないですよね。
Done2 Done1

・Continue(次に進む)→Next、OK
海外ゲームでは、「次の画面に進む」という意味で「Continue」という英語がよく使われますが、「コンティニュー」は日本人ユーザーにとっては「途中からやり直す」という意味の方が一般的です。

・イギリス式スペル→アメリカ式スペル
英単語の中には、イギリス英語とアメリカ英語でスペルが違うものがあります(「Centre/Center」や「Colour/Color」)。開発元がイギリスのスタジオである場合、原文でイギリス式のスペルが使われていることも多いです。日本人にとってはアメリカ式のスペルの方が馴染みがあるので、原文をそのままコピペする際はアメリカ式のスペルに直しておくといいでしょう。



翻訳という仕事をする上では、つい全てのテキストをきれいに日本語化したくなってしまうものです。 実際、海外ゲームの日本語版をプレイしてみると、英語のままの方が自然に見えるテキストなのに日本語に翻訳されているケースを見かけることがあります。
日本のゲームをプレイする際に、「どのようなインゲームテキストが英語で表示されているか」、「対象年齢が低い(高い)ゲームではどれくらい英語が使われているか」といったことを意識してみるといいと思います。

…とはいうものの、「このテキストが日本語に翻訳されてるせいで雰囲気が壊れた!」や、「ここが英語のままだと分かりにくい」といったユーザーの声は、今までほとんど聞いたことがありません。ですので、どのテキストを英語のまま残すかに関しては、そこまで神経質になる必要はないと思います。ディテールにこだわる場合のみ、考えてみるといいでしょう。



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