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ゲーム翻訳 20 ~翻訳に必要な資料~

こんにちは、管理人の羽無エラーです。

ご存知のとおり、管理人は洋ゲーのローカライズを生業としているわけですが、ローカライズの際に、ゲームテキストの翻訳を自らの手で行う場合もあれば、外部の翻訳会社さんに依頼させていただく場合もあります。英語で数万ワード程度であればチーム内のリソースのみで消化可能なのですが、例えば10万ワードを超えるような分量になってくると、短期間でさばくのは不可能に近く、どうしても外注会社さんに頼らざるを得ません(ローカライズ部門内に翻訳専任のチームでもあれば話は別ですが)。

しかし、翻訳会社さんに依頼をする場合であっても、当然、テキストファイルのみを渡して丸投げ、というわけにはいきません。①翻訳に必要な資料をまとめたり、②固有名詞の訳語を決めたり、③開発元との質疑応答を取りまとめたりなど、ローカライズチーム内で発生する翻訳関連の業務は、実は意外と多かったりするのです。

そして、そういったディレクションをうまくこなしていけるかが、ローカライズチームの腕の見せ所でもあります。特に、上記①などは極めて重要で、翻訳開始前に適切な資料出しができるか否かで最終的な翻訳のクオリティーが決まってくると言っても過言ではないと思っています。

手前味噌な話で大変恐縮ですが、管理人が所属するローカライズチームでは、資料作成を綿密に行うことをポリシーとしているため、翻訳会社さんから感謝のお言葉をいただくこともしばしばあります。当然、その甲斐あって、翻訳会社さんから上がってくる訳文のクオリティーも毎回非常に高いものになっています。

では、翻訳を外注に出す際、テキストファイル以外にどのような資料を提出する必要があるか?ということですが、管理人としては、最低でも以下のような資料が必要だと考えています。


●ゲーム概要資料
●ストーリー資料
●キャラクター資料
●グロッサリー



一番上の「ゲーム概要資料」ですが、これはゲームのシステム、操作方法、フックとなる要素など、そのゲームの概要を伝えるための資料です。こちらに関しては、大抵、社内の幹部やファーストパーティーへのプレゼンで必然的に作成することになると思いますので、それの体裁を整えるなどして翻訳会社さんに提出すれば良いと思います。

他の3つについては、少々具体例が必要かもしれません。最近、Steamの「早期アクセス」で『Dungeon Dashers』という面白そうなタイトルを購入しましたので、同タイトルのローカライズを想定して説明してみようかと思います。

(注)
ここからの資料内容は、あくまで例です。管理人は『Dungeon Dashers』をまだ序盤の30分ほどしか遊んでいないため、資料の内容には不適切な部分や誤りが含まれている可能性が大いにあります。今後、『Dungeon Dashers』のローカライズを検討するパブリッシャーさんが出てくるかもしれませんが、資料の内容を真に受けないことをオススメします(笑)。


●ストーリー資料
読んで字の如くですが、そのゲームのストーリーを詳しく把握できるような資料です。

(例)

オブシディアン山脈に囲まれた「サンクチュアリ王国」では、住民たちは平凡ながらも平和な暮らしを営んでいた。山脈には「ルビコンの道」と呼ばれる洞窟がかねてより存在し、その洞窟を抜けた者は莫大な富を手にする、との言い伝えもある。が、安定した生活を捨ててルビコンの道へと挑む者は少なく、また、洞窟に足を踏み入れた後、王国に生還した者は、これまで一人たりとも存在しない。

ある日、王国の住人のうち4人の目の前に、青く輝く神秘の紋章が現れた。その紋章によって、彼らは内なる冒険心をかき立てられ、無意識のうちに、ルビコンの道へと各々迷い込んでいくのであった。

洞窟の中で出会いを果たす4人の冒険者たち。何者かの力により謎の場所へとワープさせられ、王国へ引き返すことができなくなった彼らは、互いの能力で助け合いながら奥深くへと進んでいく。


実際はこんな、冒頭のみを記述しただけではNGです(笑)。できるだけ詳細に、かつエンディングまでの流れを全て網羅した内容を翻訳会社さんに伝える必要があります。例えば、物語後半への伏線となってくるような台詞があった場合、それが伏線だと知っているかどうかで訳し方が全く異なってくるでしょう。また、翻訳者がストーリーの全貌を把握していれば、テキストファイル内で文字列を見ただけでも、その文字列がどんな文脈で使用されるのか想像しやすくなります。ストーリー分岐があるゲームの場合、分岐の仕方をチャートで示してあげるのも手です。


●キャラクター資料
各キャラクターの背景、性格、口調といった、各々の台詞を訳すうえで必要となってくる情報をまとめた資料です。ある意味で、この資料が最も重要かもしれません。『Dungeon Dashers』であれば、管理人は以下のように資料を作ると思います。

Ryder.png
名前:ライダー
性別:男
年齢:18~20
クラス:シーフ
一人称:僕
二人称:あなた、君
概要:
黒魔法を操ることができるが、まだ未熟で世間知らずな若きシーフ。かつて、彼の一家はとある権力者に仕えていたが、冷酷かつ貪欲な主君であったため、満足な報酬は与えられず、家族は貧しい暮らしを強いられていた。ライダーの黒魔法は、現在行方不明の父から習ったものであり、その黒魔法を活用して盗みを働き、これまで何とか生きながらえてきた。後ろめたい人生を送ってきたことから、他者に心を開くことは少なく、弱気で悲観的な言動を取ることもある。

セリフ例:
「ここはどこだ? 僕はどうして・・・?」
(ジェイコブに)「ぼ、僕のいきさつなどどうでもいいでしょう。あなたこそ、どうしてこんな場所に?」
(他の3人に)「体が冷えてきた。おしゃべりなどやめて動きませんか?」

SirJacob.png
名前:ジェイコブ将軍
性別:男
年齢:45~50
クラス:戦士
一人称:私
二人称:お前、貴様
概要:
王国の顧問と衛兵たちを束ねる老練の剣士。卓越した剣術に対する絶大の自信や、その地位の高さから、常に勝気な態度を取っており、また、他者を見下す物言いをすることもある。4人の中では最もリーダー的な存在

セリフ例:
「我が名はジェイコブ。誇り高きロイヤルガードの一員である!」
「ははは! この私が、こんなこわっぱどもにやられるとでも思ったか!」
(ライダーに)「人違いか。貴様のようなヒヨッコが魔術師であるわけがあるまい」
(アルドンに)「貴様、何者だ? 素性を明かせ」

Ardon.png
名前:アルドン
性別:男
年齢:65~70
クラス:魔法使い
一人称:わし
二人称:そなた、お前

概要:
王国の住民と交流することなく暮らしてきた魔術師。魔法に関して幅広い知識を持っているが、それが原因で教養のない一般人を蔑み、他者に対して無礼な態度で接することもしばしば。

セリフ例:
「さよう。無学な市民どもとかかわりたくないものでな」
(ジェイコブに)「そなたのような愚か者に名乗る名前などないわい」

January.png
名前:ジャニュアリー
性別:女
年齢:18~20
クラス:狩人
一人称:私
二人称:あなた

概要:
知性と分別のあるエルフ。友好的で素直な性格だが、冒険心旺盛であるため、平凡な暮らしに満足する町の一般人を退屈だと思っている。弓矢の鍛錬に多大な時間を割いてきたこともあり、これから始まる冒険に胸を躍らせている

セリフ例:
(アルドンに)「あら、おじいさん。元気かしら。まだあの掘っ立て小屋に住んでいるの?」
(ジェイコブに)「やめなさい。この人はアルドン。悪い魔術師ではないわ」
(ライダーに)「こんなきれいな森に来たんだから。楽しまなきゃ損よ」


台詞の訳し方に影響を与えそうな部分は赤文字にしました。上記のとおり、そのキャラクターの性格のみならず具体的な訳例を記載した方が、翻訳会社さんにイメージが伝わりやすくなると思います。台詞を持つ全てのキャラクターに関してこのような情報を出しておくと、現場での翻訳作業がスムーズに進むことでしょう。


●グロッサリー
何となく横文字にしましたが、要するに「用語集」です。個々の訳語をパブリッシャーが決めるか翻訳会社が決めるかは方針によるところなので、場合によっては、パブリッシャー側でグロッサリーを作成する必要はないかもしれません。正直なところ、管理人は絶望的なほど固有名詞のセンスがないので・・・、一部空欄にしておいて翻訳会社さんに訳語をご考案いただくこともあります。ズルいでしょ(笑)。

(例)
英語日本語備考
Realm of Sanctuaryサンクチュアリ王国地名
Obsidian Blockadeオブシディアン山脈地名
Passage of Rubiconルビコンの道地名
Tactical Modeタクティカルモードシステム
Ryderライダー人名
Sir Jacobジェイコブ将軍人名
Ardonアルドン人名
Januaryジャニュアリー人名


●資料の質=翻訳の質
いかがでしょう。上記に挙げたのはあくまで最低限の内容であり、実際は他にも必要な資料は多数存在すると思います。ボリュームの薄めなインディーズゲームならいざしらず、現在の重厚長大な洋ゲーのローカライズでは、翻訳会社さんに出す資料をまとめるのに、どんなに少なく見積もっても1週間はかかるのではないでしょうか。というか、それぐらいは時間をかけなければならないと思います。

翻訳を依頼する側(クライアント側)にとっては大変な手間かもしれませんが、ゲーム翻訳のクオリティーというのは、現場の翻訳者だけで上げるのには限界があります。翻訳の質を決定づける要素としては、翻訳者個人のスキルよりも、むしろパブリッシャーのディレクションのスキルの方が重要性が高いような気もします。

他にも、こんな資料があると翻訳に役立つよ、といったものがあればぜひ教えてください。

ではでは。
 
 
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コメント

ゲーム翻訳に必要な資料
いつも楽しく読ませて頂いてます。

こんな会社と仕事をしたいです。資料がほとんど出てこず、翻訳対象部分のexcelだけが渡されるパブリッシャーの仕事が多いので・・・。
出す側の苦労を差し置いて、頂く方だけの希望であるとうれしい資料を挙げるなら、やはり主な画面のスクリーンショットでしょうか。
開発中のものでもいいので、動いているゲームの動画などがあれば最高です。

これまでに苦労したものと言えば、カードゲーム的なゲームの、カードのフレーバーテキストでしょうか。
アイテム、スキル、キャラクター等、データベース的なもののフレーバーテキストの翻訳には対象の画像が欲しいところです。あるとないとで、まったく難易度が違いました。

もちろん、シリーズ作品の場合は、過去の作品の翻訳メモリが欲しいところですね。これは書いてないだけで、おそらく渡しているのだと思うのですが。

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